私はインドやフィリピンのオフショア開発のブリッジエンジニア(ブリッジSE)として4年、日本の社内SEとして6年経験してきました。その中で、ブリッジSEが持つべきオフショア開発での課題意識とその課題を解決する為のキャリアパスについて考えてみました。弊社内の若手ブリッジSEにも参考になれば幸いです。
ブリッジSEの解決すべき課題とは
「お客様は何を求めてオフショア開発を選択されるのか?」
眼の前のタスクの先を見据え、この問いを解決する為にブリッジSEは日々行動したいものです。
当章では、クライアント視点でのオフショア開発の検討目的と課題を挙げます。
(その他のメリット・デメリットをまとめた記事はこちらをご参照下さい。)
更に、日本人ブリッジSEとしての外部環境を整理します。
オフショア開発の目的トップ2
オフショア開発の目的のトップ2は「リソースの確保」と「コスト削減」です。
日本国内のITエンジニアの不足と価格高騰を背景に「リソースの確保」を目的として、大手企業が海外進出するケースも多くなっています。グローバルソーシングとしての意味合いで、AI、クラウド、IoTなど幅広い分野の専門的なエンジニアを調達する動きがあります。私が新卒で入ったインド財閥のIT企業では、新卒を1年で4万人雇用してます。正直、この目的を叶えるというのは、ブリッジSE一個人でどうにかなる話ではなさそうです。
また、日本と比べ、海外の比較的低コストな人件費を背景にオフショア開発を選ぶ企業も多いです。ただ、円安と物価上昇(賃金上昇)の傾向が続く中で、近年は「コスト削減」メリットは若干少なくなっています。それでもオフショア開発が見合う価値・成果を産み出す必要があるのです。そのため、ブリッジSEは「コスト意識」が大切だと私は考えます。
コスト意識:オフショア開発ビジネスとは?
私が若手のブリッジSEだった頃は、見積や損益確認の機会も少なかったので、コスト意識が低かったです。オフショア開発はどうやってコストパフォーマンスを上げるのか、クライアントに価値提供をするのか、改めて考えてみましょう。
例えば、日本国内で開発する場合は、日本人エンジニアが人月単価100万円として、同じ開発者数をオフショア開発で叶える場合を試算してみました。この数値は私のオフショアイメージ価格で計算しました。※弊社の価格テーブルとも無関係です。オフショア委託先の国別でも異なります。
| 国内 | オフショア | 結果 |
| 開発2人 →200万円 | BrSE1人+開発2人 →176万円 | 12% OFF |
| 開発3人 →300万円 | BrSE1人+開発3人 →222万円 | 26% OFF |
| 開発6人 →600万円 | BrSE1.5人+開発6人 →402万円 | 33%OFF |
開発者1名では国内開発の方が安い為、ここには記載していません。この価格表は日本国内とオフショアの開発者が同レベルだった時の想定です。オフショア開発では国を挟んで開発する以上、国内開発よりも品質やアウトプットは下がってしまう可能性も正直あります。やはり、オフショア開発のコストメリットを叶える為には、最低でも開発者2名から3名は欲しいですね。
また、過去の経験上、2年目くらいのブリッジSEが対応できる開発者人数の目安は2〜3名だと思います(設計もレビューも含めた場合)。設計やレビューはクライアントで可能な場合は、もっと複数の開発者を入れられますね。なお、弊社のブリッジSEは技術力を高めて、テックリード的なコードレビューまで行う場合が多いです。別章で後述しますが、ブリッジSEに別の役割をプラスすることで価値を提供できると考えます。
また、最後の例の開発者6名を確保した場合、サポートブリッジSEを入れないで、ブリッジ1人で開発者6人対応する場合は国内対比40%OFFになります。クライアントにとって、1ヶ月あたり600万円-360万円=240万円のコスト削減になります。通常のプロジェクトであれば3〜6ヶ月は継続する為、半年で1440万円もコスト削減できるのです。シニアブリッジSEは、新卒〜2年目の2〜3倍の開発者数を捌く事を目標としたいですね。
オフショア開発の課題トップ2
オフショア開発の課題トップ2は「コミュニケーション」と「品質管理」です。
そもそもオフショア開発では、システム開発業務などを海外の開発会社や海外子会社に委託する為、我々ブリッジSEは日本と海外開発拠点で生じるギャップを”橋渡し”する必要があります。
我々は、ただの通訳者(コミュニケーター)ではなく、
・国(商習慣・お国柄)
・IT/SEスキル(システム開発・プログラミング・環境)
・仕様(業務・業界・システム・要求仕様)
・コミュニケーション力・プレゼン力
など、様々なギャップを日本⇔海外/クライアント⇔開発者の側面からブリッジしていくのです。
まさに、この課題トップ2は、話す言語も、商習慣も、文化も違う関係者間で行うからこそ生じるデメリットなのです。この課題を解決し、オフショア開発のメリットを高めたいですね。
日本人ブリッジSEの外部環境
コミュニケーター・外国人ブリッジSEの脅威
これまでの中国中心だったオフショア開発が、人件費の高騰により、別の国に移りつつあります。外国人ブリッジSEはオフショアのシニアエンジニアよりも値段が高く、まだ価格の安いベトナムやミャンマーなどでも60万円/人月、インド、バングラデッシュ、フィリピンは80〜90万円と各国様々ですね。通訳・翻訳のみのコミュニケーターはやはり半額くらいが目安でしょうか。
単価の高い日本人ブリッジSEは、以下脅威を想定し、日々努力せねばなりません。
・外国人ブリッジSEとの価格競争が常にある。
・ベトナムの様に親日国で、日本語を習得を強化している国もあり、ライバルは増えていく。
・クライアントがオフショア先の言語やSE力を習得され、ブリッジが不要になる。
AIや言語ツールの成長
最近のAIや翻訳ツールの成長は目覚ましいものがありますね。ツールの進歩は、コミュニケーターや外国人ブリッジSEが、日本人ブリッジSEとの差を埋める脅威です。我々も習得し、高いレベルで使い熟したいです。
特にChatGPTの発表は破壊的でした。ある分野の技術が分からなくても、ChatGPTで質問をして、回答を得られたら翻訳してもらって、そのままオフショアに共有といった使い方ができるので、業務がどんどんスムーズになっています。
また、無料のDeepL翻訳やGoogle翻訳を始めとし、Tradosなどの翻訳支援ツール(CATツール)など、10年前のプロジェクトを考えるとあり得ないほど精度が上がっています。ちなみに、私はクライアントのご要求がなく認識齟齬が起きそうにない場合、基本的に英語でドキュメント作成や指示をします。日本語の文章は一切作らないので翻訳業務が不要になり、他の価値提供に集中しています。
スキルアップで課題解決→キャリアパス拡大
当章では、改めてブリッジエンジニアのスキルと仕事内容を3つの業務としてまとめます。さらなるスキルアップにより広範囲かつ専門性を持ったブリッジSEとしてキャリアパスを広げ、クライアントの課題を解決したいですね。
コミュニケーター業務
ブリッジSEは、語学力や異文化コミュニケーションスキルを活かして、会議の通訳や議事進行、資料の翻訳、課題管理などを行います。更に、プレゼンテーションも求められることがあります。また、SE力で深く技術面も理解した上で、コミュニケーターを上回る必要があります。
翻訳者
私はインド系企業で勤めていた時「翻訳のシューマッハ」と呼ばれてました。最速で翻訳を終わらせるために、翻訳者の技術を学んだり、翻訳支援ツールを使ったりと工夫しました。今ではChatGPTや言語ツールも進化を遂げてますので、品質とスピードのバランスを図りながら簡略化できる所はツールに任せたいですね。
語学力アップ
弊社でも毎日オンライン英会話で日々研鑽しているエンジニアがいます。こうした努力は間違いなく、コミュニケーター業務を更にレベルアップしてくれますね。英語のブリッジSEとしては、TOEICなら800点レベルは軽く取りたいものです。
ソフトスキルアップ
仕事の仕方が上手い人っていますよね。周りの巻き込み力、仕事の段取り力、会議の議事進行力、資料作成スキル、即リプ、ホウレンソウ、社会人スキルなど。汎用的に使える仕事力を高めたいものです。
SE業務
ブリッジSEは、プロジェクトで使われるIT技術の知識やスキルを身につけ、ウォーターフォールやアジャイル開発などのSEと同様、プロジェクトの局面毎に適切なタスクをこなして行きます。
ITの基礎知識
プロジェクト内の技術に精通するのはブリッジSEとして重要です。しかし、相反する事を言いますが、幅広い経験や他の技術の例を駆使し、技術的にわからない事ですらブリッジできると一人前ですね。また、保守運用のプロジェクトであれば、日々の問題解決能力も似たようなスキルです。そういったSEの勘は、幅広いITの基礎知識や経験の上に成り立っていると思います。例えば、基本情報技術者試験やコンピューターサイエンスを学ぶのもよいですね。弊社では、若手が中心となって、幅広いトピックのライトニングトーク(LT)で知識を深めあっています。
品質保証
専任のQAエンジニアを設けることがコスト的に難しい事はよくありますよね。プロジェクト内のプログラミング言語のテストツールに精通し、テスト技法を理解した網羅的なテスト仕様書で指示を出せたり、納品物の品質チェックを行い、完成物に責任を持ってくれるブリッジSEは頼りがいがあります。
テックリード/デザイナー
要件定義力や設計力を高め、アーキテクチャーも含めた、システムの全体を設計できるブリッジSEになりたいですね。FigmaやXDなどでUI/UXデザイナー的なこともできると+α。規模が小さいプロジェクトで、テックリードの代わりができるブリッジSEは、プロジェクトのコストを抑えられるのです。
プロジェクトマネジメント業務
クライアントのフロントに立つブリッジエンジニアがプロジェクト全体の進捗管理を担うことも多いです。JIRAなどのチケット管理システムやWBSなどを駆使し、進捗を管理していきます。
スクラムマスター
メンバーの特性や過去の経験を把握し、現在のチケット状況を見極めながら、メンバーのタスク切れを防きつつ、優先度・重要度に沿ったチケットやタスクのアサインが求められます。また、ソースが被って無駄な競合を産まないように配慮ができるのが理想です。まさに、プロジェクトの軍師!
TL、PL、PM
プロジェクトでは、チームリーダー(TL)、プロジェクトリーダー(PL)、プロジェクトマネージャー(PM)など様々なマネージメントの役割があります。また、PMBOKやPMPなどいろんな資格がありますが、本質はリーダーシップを発揮してQCDに責任をもち、プロジェクトや組織の目標を達成することだと思います。こうしたコミットメントのあるブリッジSEは信頼されますよね。
他にも、プロトタイピング、ITコンサルやサービス企画など様々な+αができると、唯一無二の価値提供ができますね。
まとめ
改めて考えてみると、ブリッジSEに求められる事は本当に幅広く、プロジェクトへの貢献度が非常に高く、グローバルでエキサイティングな仕事だと実感します。
・「リソースの確保」や「コスト削減」など、お客様が何を求めているか理解する。
・「コミュニケーション」と「品質管理」など様々な課題を把握する。
・グローバルな環境の中でいかに日本人として付加価値を提供するか考える。
・日々の研鑽でキャリア・スキルアップをし課題を解決する。
・自らの好きなキャリアパスへ。
我々、ブリッジSEが課題意識を持って、1つでも多くプロジェクトを成功に導くことができ、クライアントとともに、エンジニア冥利に尽きる体験が出来れば素敵ですね。
最後までお読み頂きありがとうございました!



